藤井太洋「ハロー・ワールド」
2018年マイベストワン
SF小説というジャンルで扱われているが全然未来感のない現代の物語
現役エンジニアの人が読むとめちゃくちゃ面白い!絶対読むべき
なにせ作中に出てくる用語やツールが、馴染みのあるものばかり
macbookを使いslackで連絡を取りgithubでコードを共有する
サーバにはAWSを使いマストドン(むしろ懐かしい)やドローンも出てくる
主人公は自称「何でも屋」のエンジニア。この手の物語にありがちなスーパーハッカーではない
Swiftは難しいからJavaScriptを使うと言ってしまうような普通レベルのエンジニア
収録されているのは5つの短編で、1つ1つは50ページくらいなので読みやすい
主人公がトラブルや事件に巻き込まれて、その問題をどうやって対処してくかというストーリーが基本
特別な能力のない主人公だけど「巻き込まれ力」だけは特A級
ハローワールド
表題作
不器用ながらも仲間と作った広告ブロックアプリが突然インドネシアでヒットしたところから主人公の巻き込まれ力が発揮される
登場人物の紹介的な意味合いもあるけど、この短編シリーズを通しての「インターネットは自由でなくてはならない正義感」が込められてる
特定の国家や団体が情報を収集するのはFacebookにしてもGoogleにしてもCIAにしても秘密でやってることがバレるとスキャンダル
※関係ないけど現実世界の日本ではホワイトハッカーさんが秘密裏に改造したノードでIPアドレス収集しまくっても賞賛されるのは何故なのか
行き先は特異点
アメリカ出張中の主人公がレンタカーで山道をドライブ中にGoogleの自動運転車にカマを掘られるところから始まる
センサー満載の自動運転車にカマ掘られる安定の巻き込まれ力
なんでこんな事故が起きたのか、終盤で技術的に面白い説明がなされる
わりと詳しい分野だったしフォーマットも見たことあるはずなのに思いつかなかったネタ
五色革命
タイのバンコク出張中に大規模なデモとクーデターに巻き込まれ道も空港も閉鎖されて滞在先のホテルから出るに出られないタイプの巻き込まれ
小道具としてドローンが出てくるけど、その性能は未来感ある
「豊かさ」と「自由」には関係性がないという事実は特に若者にとって辛い現実となる話
それにしても主人公はラノベのようによくモテる
巨像の肩に乗って
皆さんは「マストドン」を覚えていますでしょうか?
「もし中国でTwitterが利用できるようになったら?」という話
他のFacebookやインスタが使えないのにtwitterだけ中国の国内で使えるようになったとしたら何が起こるのか
カンの良い人なら思い当たる理由によって作中ではtwitterのアカウントを削除する人が次々出ることになる
その避難場所としてマストドンが表舞台に出るという歴史のif展開
書いてて気がついたけど、この話だけ主人公は巻き込まれてない
『インターネットは自由でなきゃならない』
この本の中で一番響いたフレーズ
めぐみの雨が降る
マレーシアで開催されたフィンテック(金融技術工学)イベントに日本からのゲストスピーカーとして招待された主人公。なんやかんやで巻き込まれる
ビットコインの詳しい説明とその歴史が物語の中で説明されてて、その辺にある胡散臭いブログよりよっぽど詳しい
世界で一番電子決済が進んだ国である中国が後半の舞台
お店だけでなく屋台ですらスマホのQRコードで決済できるのは小説の中の架空の話じゃなくて中国の現実
技術的にも政治的にもエレガントであるはずのビットコインが投機の対象となっていることを作者である藤井太洋が嘆いて小説にしたんじゃないかと思えた
以上、5つの短編
そのどれもがある種エンジニアへの「踏み絵」になりえる
作中の取り組みをどう見るかによって、全く違う印象になるかもしれない