火星の人
個人的な2016年のベストSF小説。
有人火星探索で、とある事故により1人火星に取り残される物語。
ともかくリアルというか現実的。非現実的な超技術や宇宙人は出てきません。
物語は現代よりも未来の設定だけど、科学技術的には今できることの延長。というか今すぐにでも可能なんじゃと思わせるくらい。
中学生レベルの知識があれば作中の説明は十分理解できて楽しめる。
物語は火星に1人取り残される主人公がミッションを記録した日誌形式で進む一人称視点のパートと、主人公を救出しようとする地球NASAの複数の職員たちの様子を三人称視点で描くパートが交互に進む。
主人公の様子は、「今日はこんなことがあった」、「数日この問題に取り組んでた」といったような書き方がされる。
このためリアルタイムではないのだけれど、何か大きな物事に取り組む前には必ず「これから何をするのか」が記録される。
これって物語を読んでると親切だなぁと思う反面、なかなか学びがある。
水も空気も食料も限られた宇宙に1人。自分の命の危機が迫っていて解決しなければならない問題がいくらでもある状況の中で、とりあえず作業に着手する前に考えを整理しながらミッションログに記録するなんて、なかなか出来そうにない。
対して、地球NASA側は、まぁ政治的な判断というか組織って大変だなぁというのを教えてくれます。
職務や立場が違うので、何が正しいのかが対立することもしばしば。でも、それぞれの立場で正しいと思えることを進めて物語が進みます。
基本的に登場人物は善人でマジメ。
むしろ不真面目なのが、火星に取り残された主人公。
ミッションログなのに、それはそれはユーモアに溢れた表現で自分の身に降りかかった状態を説明してくれます。
おそらく本書が、インターネット上で発表され瞬く間に書籍化が決まり、その数か月後には映画化が決定するというシンデレラストーリーに至ったのも、この主人公の独特な語り口が主要因だったんじゃないかな。
この世界中に愛された軽快でユーモラスな表現は、引用するのが勿体ないので本書を手に取って読んでほしい。